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卸売業の在庫が資金繰りを悪化させる構造

2026.07.27

卸売業の在庫日数と資金繰り悪化の判断

結論:在庫は粗利ではなく、何月に現金へ戻るかで判断する

卸売業で売上はあるのに現金が残らない会社は、まず在庫日数と資金化時期を確認すべきです。

在庫は帳簿上は資産です。しかし、仕入代金を払った後、商品が倉庫に残っている間は現金ではありません。販売できても、売掛金の回収が翌月、翌々月になるなら、現金に戻るまでさらに時間がかかります。

資金繰りへの影響は、粗利率だけでは判断できません。粗利が出る商品でも、在庫として3か月止まり、販売後の回収が2か月後なら、仕入から入金まで5か月資金が固定されます。借入返済や税金、給与の支払いが毎月ある会社では、この時間差だけで資金ショートします。

再生局面では、在庫を「売れば利益が出る資産」と見るだけでは足りません。「いつ、いくらで、現金に変わるか」で見ます。資金化予定日が入らない在庫は、資金繰り表上は守りではなくリスクです。

卸売業で現金が残らない基本構造

卸売業の資金繰りは、次の流れで悪化します。

段階会計上の見え方資金繰り上の見え方
仕入れる在庫が増える支払予定が発生する
倉庫に置く棚卸資産として残る現金化されず資金が固定される
販売する売上・粗利が出る売掛金になり、まだ入金されない
回収する売掛金が減るここで初めて現金に戻る

問題は、仕入代金の支払いが販売代金の回収より先に来ることです。

たとえば、仕入代金を月末締め翌月末払いで支払い、販売代金を月末締め翌々月末回収で受け取る会社を考えます。商品が仕入後1か月で売れても、現金回収は仕入から3か月後です。在庫が2か月寝れば、現金回収は4か月後になります。

この間にも、給与、家賃、借入返済、税金、社会保険料は出ていきます。だから、売上が増えていても現金が減ることがあります。

最初に見る数字は在庫総額ではない

在庫総額だけを見ても、資金繰り判断には使えません。見るべき数字は、在庫が何か月分あるか、いつ売れるか、売った後いつ入金されるかです。

最低限、次の数字を確認します。

確認項目見る理由
在庫金額仕入資金がどれだけ固定されているかを見る
月間売上原価在庫が何か月分あるかを計算する
在庫日数・在庫月数通常水準を超えた過剰在庫を見つける
売掛金回収サイト販売後、現金に戻るまでの期間を見る
買掛金支払サイト仕入代金をいつ払うかを見る
滞留在庫・不良在庫帳簿価額どおりに現金化できない在庫を分ける

経済産業省のローカルベンチマークでも、営業運転資本回転期間は、売上債権、棚卸資産、買入債務を組み合わせて見る考え方が使われています。つまり、在庫だけを単独で見るのではなく、売掛金と買掛金を含めて、事業に何か月分の資金が固定されているかを見る必要があります。

説明用の数字で見る資金固定

これは実在案件ではなく説明用の仮定です。

月商1,000万円、粗利率25%の卸売業を考えます。売上原価は月750万円です。

通常必要な在庫を売上原価1.5か月分とすると、必要在庫は1,125万円です。ところが実際の在庫が3か月分、つまり2,250万円ある場合、過剰在庫は1,125万円です。

項目金額
月商1,000万円
売上原価750万円
通常必要な在庫 1.5か月分1,125万円
実際の在庫 3.0か月分2,250万円
過剰在庫1,125万円

ここで間違えてはいけないのは、過剰在庫1,125万円がそのまま資金余力ではないことです。

3か月以内に現金化できる見込みが600万円で、値引きや処分損が120万円なら、資金繰り表に入れられる実質回収見込みは480万円です。

毎月の営業資金赤字が150万円なら、480万円は約3.2か月分の延命効果です。一方、残り645万円の在庫について販売時期が決まっていなければ、資金繰り表には入れません。「いつか売れる」は資金繰りではなく希望です。

在庫削減でやってはいけないこと

資金繰りが苦しい会社ほど、在庫を一気に現金化したくなります。しかし、単純に値引き処分すればよいわけではありません。

粗利を壊す処分

在庫を現金化するために大幅値引きをすると、粗利が壊れます。粗利率25%の商品を30%値引きで売れば、販売数量は増えても赤字販売になります。

資金繰り上は一時的に現金が入ります。しかし、仕入代金、保管費、販売手数料、配送費まで含めると、会社の体力を削る処分になることがあります。

主力取引先との価格を壊す処分

卸売業では、同じ商品を複数の販売先へ出すことがあります。資金化を急いで一部の販路だけに安く流すと、既存取引先との価格関係が崩れる可能性があります。

在庫処分は、現金化額だけでなく、今後の取引条件や信用への影響も見ます。

売れる在庫と売れない在庫を混ぜる

一番危険なのは、在庫を一つの合計額で見ることです。

再生局面では、在庫を少なくとも次の4つに分けます。

区分判断
通常回転在庫販売計画どおりに動いており、無理に処分しない
季節在庫販売時期と入金時期を資金繰り表に入れる
滞留在庫値引き、返品、買取、セット販売など処分方針を決める
不良在庫帳簿価額ではなく、実際の処分可能額で見る

この分類をしないと、売れる在庫まで安売りし、売れない在庫を帳簿上の資産として残すという逆の判断になります。

銀行へ説明するなら在庫表を資金繰り表につなげる

銀行に「在庫があります」と説明しても、資金繰り改善の根拠にはなりません。必要なのは、在庫がいつ、いくらで、現金に変わるかです。

在庫表には、少なくとも次の項目を入れます。

項目目的
商品分類通常品、季節品、滞留品、不良品を分ける
帳簿金額会計上の在庫額を確認する
販売見込み額実際に売れる金額を見る
値引き・処分損現金化のための損失を見る
販売予定月売上計上時期を見る
入金予定月資金繰り表に入れる月を決める
処分方針通常販売、値引き、返品、買取、廃棄を決める

中小企業庁の会計資料では、棚卸資産は販売目的の商品・製品、仕掛品、原材料等に分類され、原則として取得原価で計上する考え方が示されています。しかし、資金繰りでは、帳簿上の取得原価より、実際に現金化できる金額と時期が重要です。

銀行交渉では、在庫処分で何月にいくら入るのか、処分損はいくら出るのか、通常販売を維持する在庫はいくら残すのかを示します。これがないまま「在庫を売って返します」と言っても、返済原資としては弱い説明になります。

実務判断:在庫は「利益商品」ではなく「資金化予定」で見る

卸売業の社長は、在庫を「売れば利益が出る商品」と見がちです。その見方自体は間違いではありません。問題は、資金繰りが厳しい局面では、利益より先に支払日が来ることです。

見る順番は次のとおりです。

  1. 今月から13週間で支払不能週があるか
  2. 在庫のうち3か月以内に現金化できるものはいくらか
  3. 現金化するための値引き損、配送費、手数料はいくらか
  4. 現金化してはいけない通常回転在庫はいくらか
  5. 在庫処分後も営業資金収支が赤字なら、固定費削減やリスケを同時に進める

在庫を売って一時的に資金が入っても、仕入方法や販売条件が変わらなければ、数か月後にまた在庫が膨らみます。したがって、在庫処分は単発の資金繰り対策ではなく、発注ルール、最低在庫、販売条件、回収サイトの見直しとセットで行います。

無料相談で確認する資料

卸売業で売上はあるのに現金が残らない場合、決算書だけでは原因が見えません。無料相談では、次の資料があると判断が早くなります。

  • 直近2期分の決算書
  • 最新の試算表
  • 商品別または分類別の在庫一覧
  • 滞留在庫、不良在庫、季節在庫の一覧
  • 売掛金一覧と回収予定日
  • 買掛金一覧と支払予定日
  • 直近6か月の預金通帳
  • 13週間資金繰り表、または入出金予定表
  • 金融機関別の借入残高と毎月返済額

すべて揃っていなくても相談は可能です。最初に確認するのは、売上や粗利ではなく、在庫が何月に現金へ戻るかです。

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参考資料

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