自宅を守りたい経営者が早期に確認する契約
2026.07.20
目次
結論: 自宅保全は名義変更ではなく、契約の棚卸しから始める
経営者保証や自宅担保がある社長に向けた記事です。
自宅を守りたいとき、最初にやるべきことは名義変更ではありません。保証契約、担保設定、所有関係、住宅ローン、税金・社会保険料の滞納状況を確認し、どの債務が自宅に届くのかを一枚に整理することです。
早期確認そのものは、今月の入金を増やしません。資金繰りへの効果は、危ない追加担保、上限のない個人資金投入、後から問題になる資産移転を避け、5か月しかない手元資金を「会社の延命」ではなく「家族生活と交渉余地の確保」に使える点にあります。
説明用の仮定です。会社の営業資金収支が月40万円のマイナス、借入元金返済が月60万円、合計で毎月100万円ずつ現金が減っているとします。手元資金が500万円なら、単純な残存月数は5か月です。この段階で自宅の契約関係を確認していなければ、追加融資のために担保を差し出すか、リスケを先に相談するか、個人資金を入れるかの判断を誤ります。
| 確認するもの | 確認前に起きる失敗 | 資金繰りへの影響 |
|---|---|---|
| 経営者保証契約 | 会社借入がどこまで個人へ来るか分からない | 個人資金投入や撤退期限を決められない |
| 抵当権・根抵当権 | 自宅に担保余力があると誤認する | 追加担保や借換え判断を誤る |
| 登記事項証明書 | 所有者、持分、差押え、仮処分を見落とす | 売却・担保解除・専門家相談の前提が崩れる |
| 住宅ローン契約 | 事業債務と住宅ローンの関係を混同する | 家計側の必要支払を資金繰り表に入れ損ねる |
| 税・社会保険料の滞納 | 金融機関だけ見て差押えリスクを軽視する | 予定外の現金流出や交渉悪化につながる |
実務判断として、自宅を守る相談は「自宅を残せますか」と聞く段階では遅いことがあります。少なくとも資金が3か月を切る前、できれば6か月以上あるうちに、契約を集めて専門家へ見せる状態を作るべきです。
なぜ危機後の名義変更から入ってはいけないのか
資金繰りが詰まると、「自宅の名義を家族へ移せば守れるのではないか」という発想が出ます。これは危険です。会社の資金繰りを改善しないうえに、後から法的・税務的な問題を増やす可能性があります。
民法には、債務者が債権者を害することを知ってした行為について、要件を満たす場合に債権者が取消しを求める制度があります。したがって、返済に困ってからの名義変更、生前贈与、家族会社への移転、知人への形式的な売買は、記事で一般的な手法として勧められるものではありません。
名義変更は現金を増やさない
資金繰りの観点で見ると、名義変更は売上でも粗利でもありません。月100万円の資金不足がある会社なら、名義を変えても来月も100万円足りません。むしろ専門家費用、税務上の説明、金融機関や債権者への説明負担が増え、交渉の余地を狭めることがあります。
自宅保全を考えるなら、資産を動かす前に、既に何を約束しているかを確認します。保証人になっているのか、担保を出しているのか、根抵当権の極度額はいくらか、共同担保があるのか、住宅ローンは誰の債務か。この順番を逆にすると、守るための行動が、かえって守れない理由になります。
「保証」と「担保」は別に見る
経営者保証は、会社が返済できない場合に経営者個人が返済を求められる契約です。一方、担保は特定の不動産などに設定される権利です。保証があるから必ず自宅が処分される、担保がないから絶対に自宅は安全、とは言えません。
見るべきなのは、保証契約と担保設定の組み合わせです。経営者保証があり、自宅に根抵当権があり、税金や社会保険料の滞納もある場合と、保証はあるが自宅に担保がなく、早期に事業再生へ着手している場合では、取れる選択肢が変わります。
最初に集める契約と資料
自宅を守りたいなら、まず資料を集めます。専門家へ相談する前に、次の一覧を作るだけでも、判断の質は変わります。
| 資料 | 見るポイント | 誰に確認するか |
|---|---|---|
| 金銭消費貸借契約書 | 借入先、残高、返済条件、期限の利益喪失条項 | 金融機関、弁護士、再生支援者 |
| 保証契約書 | 誰が、どの債務を、いくらまで保証しているか | 弁護士、金融機関 |
| 抵当権・根抵当権設定契約 | 対象不動産、極度額、共同担保の有無 | 司法書士、弁護士 |
| 登記事項証明書 | 所有者、持分、抵当権、差押え、仮処分 | 司法書士、弁護士 |
| 住宅ローン契約・返済予定表 | 家計側の毎月支払、滞納時の扱い | 金融機関、家計管理者 |
| 固定資産税通知・評価資料 | 不動産の基礎情報、概算評価の入口 | 税理士、不動産専門家 |
| 税金・社会保険料の滞納資料 | 差押えや分納相談の前提 | 税理士、社労士、所轄窓口 |
法務省は、不動産登記について、所有者や所有権取得原因、差押え、仮処分、抵当権などを登記事項証明書で確認できると説明しています。不動産登記法でも、登記事項証明書の交付請求ができることが定められています。自宅を守る議論は、登記事項証明書を取らずに進めないほうがよいです。
経営者保証ガイドラインで確認すること
中小企業庁は、経営者保証に関するガイドラインを「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置づけています。法的拘束力はなく、保証を外すかどうかの最終判断は金融機関に委ねられると説明されています。
そのうえで、経営者保証を求めない、または見直す方向で検討する際の要素として、次の3点が示されています。
| 要素 | 社長が確認すること | 自宅保全との関係 |
|---|---|---|
| 法人と経営者の資産分離 | 会社のお金と個人のお金が混ざっていないか | 個人資産を守る説明の土台になる |
| 法人だけで返済できる財務基盤 | 営業資金収支と返済後キャッシュが改善するか | 保証解除や条件変更の説得材料になる |
| 適時適切な財務情報開示 | 試算表、資金繰り表、借入一覧を出せるか | 金融機関に隠して動くほど交渉が悪くなる |
ガイドラインは「自宅が必ず残る制度」ではない
保証債務を整理する場面では、破産時の自由財産99万円、一定期間の生活費、華美でない自宅への居住継続を金融機関が検討する場合があるとされています。これは重要な制度的余地です。
ただし、ここを楽観してはいけません。ガイドラインには法的拘束力がなく、適用するかどうかは金融機関の判断に委ねられます。自宅に住み続けられることを保証する制度ではありません。だからこそ、資金が尽きてから頼るのではなく、資金が残っている段階で契約と資金繰りをそろえる必要があります。
早期着手の価値は、回収見込みを下げないことにある
実務上の焦点は、「社長に残す財産を増やしてほしい」と頼むことだけではありません。早く着手し、会社側の回収見込みを下げない、または改善する形で資料を出すことです。
会社の資金繰り表がなく、売却可能資産や在庫、売掛金、固定費削減、リスケ後の見込みも示せない状態では、金融機関にとって判断材料がありません。自宅保全を考えるなら、家計だけでなく会社の回収見込みも同時に整理します。
資金繰り表では自宅を「最後に守るもの」として扱う
自宅を守りたい社長ほど、会社の資金繰り表と家計を分けて見ます。会社に入れられる個人資金、家族の生活費、住宅ローン、税金、専門家費用を混ぜると、最後に何を守るのかが分からなくなります。
説明用の仮定で見ます。会社の手元資金が500万円、月間資金不足が100万円なら、残存月数は5か月です。ここで自宅の時価が2,200万円、住宅ローン残高が1,600万円だとしても、単純に600万円の余力があるとは判断しません。売却費用、税金、担保設定、家族の住居、金融機関の同意、時間があるからです。
| 選択肢 | 現金への効き方 | 自宅へのリスク | 先に確認するもの |
|---|---|---|---|
| 追加担保を出して借入する | 短期的に現金が増える可能性 | 自宅を失うリスクが濃くなる | 担保設定契約、返済後キャッシュ |
| 個人資金を会社へ入れる | 即時に会社の現金が増える | 家族生活費が減る | 投入上限、家計資金、撤退期限 |
| リスケを相談する | 元金返済の流出を抑える可能性 | 追加保証・担保を求められる場合がある | 借入一覧、保証、担保、改善計画 |
| 不要資産を売却する | 入金まで時間がかかる | 自宅売却と混同しやすい | 担保、税金、入金時期 |
| 事業縮小・撤退を含める | 資金不足そのものを止める | 早いほど家族資産を残しやすい | 13週間表、6か月予測、守る生活費 |
ここでの判断基準は、「会社に現金が入るか」だけでは足りません。「その現金を得るために、自宅と家族生活の選択肢をどれだけ失うか」まで同じ表で見ます。
今週やること: 契約表を一枚作る
今週やることは、専門的な結論を出すことではありません。契約表を作り、相談先へ持っていける状態にすることです。
| 書き出す項目 | 記入例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 借入先 | A銀行、信用保証協会付き等 | 実名は社内資料だけに記載する |
| 借入残高・月返済額 | 残高3,000万円、月60万円 | 元金と利息を分ける |
| 保証人 | 代表者、配偶者、親族等 | 保証範囲と上限を確認する |
| 担保物件 | 自宅、工場、土地等 | 共同担保と根抵当権を確認する |
| 極度額・被担保債務 | 根抵当権の極度額等 | 残高だけで判断しない |
| 登記上の状態 | 抵当権、差押え、仮処分等 | 登記事項証明書で確認する |
| 税社保滞納 | 有無、金額、督促状況 | 銀行返済と同じ資金繰り表に入れる |
この表を作ったうえで、弁護士、税理士、司法書士、金融機関、再生支援者に相談します。自宅を守れるかどうかは一般論では決められません。ただし、契約を確認しないまま資金が減ると、守れる可能性のあるものまで守れなくなります。
すでに会社の返済が重く、自宅や個人保証が心配な場合は、資金が尽きる前に相談してください。資料がそろっていれば、リスケ、固定費削減、税社保の分納、個人資金投入の上限、事業縮小を同じ資金繰り表で比較できます。
参考資料
- 中小企業庁「経営者保証」
- 全国銀行協会「経営者保証ガイドライン」
- 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績について(2024年度の実績)」
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「不動産登記法」
- 法務省「不動産登記のABC」
<この記事の著者・運営者>
事業再生コンサルティング株式会社
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