税金・社会保険料を滞納した会社の初動
2026.07.07
目次
結論: 最初に見るのは銀行返済ではなく、税社保を入れた後の現金残高
税金・社会保険料を滞納した会社が最初にやるべきことは、銀行返済だけを止める相談ではありません。滞納額、今月発生する税金・社会保険料、今後の分納可能額を、借入返済と同じ13週間資金繰り表に入れることです。
説明用の仮定です。月初現預金が500万円、売上入金が月600万円、給与・仕入・固定費が月560万円、借入元金返済が月120万円、今月発生する税金・社会保険料が80万円、既存滞納分の分納希望額が80万円だとします。
営業支出だけなら月40万円の余裕があるように見えます。しかし、借入返済120万円、今月分の税社保80万円、滞納分納80万円を入れると、毎月180万円の資金不足です。銀行返済だけを猶予しても、税社保の支払い設計を同時に変えなければ資金繰りは改善しません。
| 見る数字 | 入れる内容 | 見落とした場合の危険 |
|---|---|---|
| 滞納額 | 税目、対象月、納期限、督促状況、延滞税・延滞金 | 差押えや交渉悪化を突然の事故として扱ってしまう |
| 今後発生額 | 今月・翌月以降に発生する税金、社会保険料、労働保険料 | 過去分だけ分納して、今月分で再滞納する |
| 分納可能額 | 毎月いくらなら通常支払と並行して払えるか | 払えない約束をして資金繰り表が崩れる |
| 銀行返済 | 元金、利息、保証料、リース料 | 税社保を外に出したままリスケ効果を過大評価する |
実務判断として、税社保滞納がある会社では「どの支払いを止めるか」より先に、「税務署、年金事務所、金融機関に同じ資金繰り表で説明できるか」を確認します。ここが崩れると、相談先ごとに説明が変わり、交渉の土台が弱くなります。
税社保の滞納を隠したまま銀行へ行くと、資金繰り表が信用されない
銀行返済が苦しい会社は、まず金融機関へ返済猶予を相談したくなります。それ自体は間違いではありません。金融庁等も、金融機関に対して、資金繰り相談へ丁寧・親身に対応し、既往債務の条件変更や借換えについて迅速かつ柔軟に対応するよう要請しています。
ただし、税金・社会保険料の滞納を外した資金繰り表では、会社の本当の支払能力は見えません。銀行返済を月120万円から20万円へ落としても、税社保の今月分80万円と滞納分80万円を払えば、現金は残らないかもしれません。
金融機関から見ても、税社保滞納は「隠れていた支払い」では済みません。後から差押えや追加分納が出ると、提出済みの資金繰り計画が崩れます。滞納があること自体より、滞納を資金繰り表に入れていないことの方が危険です。
税社保を別管理にしない
資金繰り表でよくある失敗は、銀行返済だけを表に入れて、税金・社会保険料を別紙や頭の中で管理することです。
これは、月末残高を実態より良く見せます。税務署や年金事務所への分納約束が月末近くに来る会社では、銀行返済を減らした効果がそのまま税社保の支払いに消えることがあります。
したがって、税社保滞納がある会社の初動では、銀行別借入一覧より先に、税社保の一覧を作ります。少なくとも、税目、対象期間、納期限、督促状況、延滞税・延滞金、今後発生額、現在の分納約束を並べます。
放置した場合のリスクは「利息」ではなく「差押え」と「事業停止」
税金・社会保険料の滞納は、単なる遅延利息の問題ではありません。
国税庁は、期限内に納付しない場合は延滞税がかかり、国税を滞納すると財産差押えなどの滞納処分を受ける場合があると案内しています。国税徴収法47条は、督促を受け、その督促状を発した日から10日を経過した日までに完納しない場合などに、差押えの要件を定めています。
2026年の国税延滞税割合は、国税庁の表では、納期限翌日から2か月を経過する日まで年2.8%、それ以後は年9.1%です。金利負担も無視できませんが、再生実務でより重いのは、預金、売掛金、動産などを押さえられ、営業活動そのものが止まることです。
厚生年金保険料等についても、日本年金機構は換価の猶予・納付の猶予を案内しています。一方で、厚生労働省の滞納整理手順では、滞納保険料の納付時期・方法を聴取し、納付に応じない事業所には差押えを行うことを伝える運用が示されています。
「相談すれば必ず待ってもらえる」ではない
ここで誤解してはいけないのは、猶予制度があることと、会社が望む金額で分納できることは別だという点です。
国税の換価の猶予は、事業継続や生活維持を困難にするおそれ、納税への誠実な意思、原則担保などの要件があり、納期限から6か月以内の申請が案内されています。認められると原則1年以内の猶予、延滞税軽減、差押え・換価の猶予があり得ますが、自動的に支払いを止める制度ではありません。
厚生年金保険料等の換価の猶予も、保険料等を一時に納付すると事業継続や生活維持を困難にするおそれがあり、納付への誠実な意思がある場合に、納期限から6か月以内の申請で受けられる場合があります。申請書、財産収支状況書、必要に応じた財産目録や収支明細書も求められます。
つまり、初動で必要なのは「払えません」と言うことではなく、「通常分を払いながら、滞納分はいくらなら継続して払えるか」を数字で出すことです。
初動で作るべき一覧表
税社保滞納がある会社は、まず次の一覧を作ります。Excelにそのまま貼れる形で、1行1債務にします。
| 区分 | 確認項目 | 資金繰り表への入れ方 |
|---|---|---|
| 国税 | 法人税、消費税、源泉所得税、対象期間、納期限、督促状況 | 納付予定週、猶予申請予定、分納希望額を週別に入れる |
| 地方税 | 法人住民税、事業税、固定資産税、住民税特別徴収 | 自治体ごとに納付先を分け、今月分と滞納分を分ける |
| 社会保険料 | 健康保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金 | 今月発生分と滞納分を分け、年金事務所との相談日を入れる |
| 労働保険料 | 労災保険料、雇用保険料、年度更新分 | 支払時期が偏るため、該当週へ一括で入れる |
| 延滞税・延滞金 | 現時点の見込額、今後増える額 | 概算でも別行にして、過小見積りを避ける |
| 銀行返済 | 元金、利息、保証料、リース料 | 税社保と同じ表に置き、止めた場合の資金効果を見る |
重要なのは、税務署用、年金事務所用、銀行用に別々の数字を作らないことです。相手ごとに説明を変えると、どれが本当の資金繰りなのか分からなくなります。
支払順位は「声が大きい相手順」では決めない
資金が足りないとき、会社は電話が厳しい相手から払ってしまいがちです。しかし、支払順位を声の大きさで決めると、事業継続と家族生活の両方を壊します。
支払順位は、次の3軸で決めます。
| 軸 | 確認すること | 例 |
|---|---|---|
| 事業継続 | 払わないと売上回収や営業継続が止まるか | 給与、主要仕入、家賃、通信、水道光熱 |
| 交渉余地 | 事前相談で猶予・分納・条件変更の可能性があるか | 税金、社会保険料、銀行返済、リース料 |
| 生活保全 | 社長家族の最低生活を壊さないか | 住宅ローン、家族生活費、教育費、医療費 |
当社の判断軸では、会社を救うことを目指しながらも、最終的な成否は家族の生活保全です。税社保滞納がある局面でも、会社へ個人資金を入れる前に、家族生活費をどこまで守るかを決める必要があります。
会社を延命するために社長の生活費をゼロに近づけ、さらに税社保と銀行返済をすべて約束どおり払おうとすると、会社も家族も同時に失います。これは再生ではなく、破綻時期を数週間遅らせているだけです。
相談先には同じ資金繰り表を出す
税務署、年金事務所、金融機関に相談するときは、同じ資金繰り表を基礎資料にします。
相談先ごとに強調点は変わります。税務署には納税原資と分納可能額、年金事務所には保険料の今後発生額と滞納解消計画、金融機関には条件変更後の資金繰りと営業改善策を説明します。しかし、元になる現金収支は同じでなければなりません。
中小企業庁の早期経営改善計画策定支援でも、資金繰り計画、アクションプラン、損益計画、資金繰表の作成が位置付けられています。税社保滞納がある会社では、この資金繰表に税社保を正面から入れることが最低条件です。
相談前に準備する資料は次の通りです。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 13週間資金繰り表 | いつ資金が割れるか、税社保と銀行返済を入れて示す |
| 税社保滞納一覧 | 対象期間、納期限、督促状況、延滞税・延滞金、分納希望額を示す |
| 6か月資金繰り予測 | 猶予・分納後に通常分を払えるかを見る |
| 直近試算表 | 営業赤字か、一時的な資金詰まりかを分ける |
| 改善施策表 | 粗利改善、固定費削減、在庫処分、売掛回収短縮の効果を月別に置く |
| 家族生活費の最低ライン | 会社延命のために個人資金をどこまで入れるかを決める |
ここまで作っても、猶予やリスケが承認される保証はありません。税目、滞納期間、督促状況、担保、保証、金融機関の数、営業利益の見込みによって結果は変わります。この記事で一般的に言えるのは、滞納を隠さず同じ資金繰り表へ入れなければ、判断の出発点に立てないということです。
最後に守るものを先に決める
営業利益が出る可能性がある会社なら、税社保と銀行返済を同じ表に入れ、猶予・分納・条件変更で時間を作り、その間に営業利益を戻すことを目指します。
一方で、営業赤字が止まらず、税社保の通常分すら払えない会社は、延命より先に「最後に唯一守りたいもの」を確認します。家族の生活、自宅、従業員の給与、取引先への最低限の支払いなど、守る対象を絞らなければ、全部を守ろうとして全部を失います。
税金・社会保険料を滞納した段階で、会社はすでに黄色信号ではなく赤信号に近い状態です。だからこそ、最初の1週間で数字を隠さず並べ、税務署、年金事務所、金融機関へ同じ資金繰り表で相談する必要があります。
資金繰り表を作っても、どの支払いを優先すべきか、税社保をどう分納交渉すべきか、銀行返済をどこまで調整すべきか判断できない場合は、早い段階で相談してください。
参考資料
- 国税庁「納税に関する総合案内」
- 国税庁「申告と納税」
- 国税庁「延滞税の割合」
- e-Gov法令検索「国税徴収法」
- 日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)」
- 日本年金機構「健康保険料・厚生年金保険料の換価の猶予を受けたいとき」
- 厚生労働省「健康保険及び厚生年金保険等の滞納整理事務に係る初期手順要領について」
- 金融庁「金融の円滑化に向けた取組及び事業者支援の徹底について」
- 中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」
<この記事の著者・運営者>
事業再生コンサルティング株式会社
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