利益が出ていても返済できない会社の見分け方
2026.08.24
目次
結論:営業利益ではなく、返済後キャッシュが毎月残るかを見る
利益が出ているのに預金が減る会社は、営業利益ではなく「返済後キャッシュ」を先に確認してください。
営業利益が月100万円あっても、借入元金の返済が月200万円あり、売掛金や在庫の増加でさらに資金が固定されていれば、会社の現金は減ります。損益計算書だけを見て「黒字だから大丈夫」と判断すると、資金ショートの時期を見落とします。
見るべき式は単純です。
返済後キャッシュ = 営業利益 + 減価償却費 – 借入元金返済 – 運転資金増加 – 税金・社会保険料の不足
この数字が毎月マイナスなら、黒字でも返済能力は足りていません。まず資金繰り表で何月に最低運転資金を割るかを出し、その月より前に、固定費削減、価格改定、不採算取引停止、追加融資、リスケを同じ表で比較する必要があります。
対象は「黒字なのに預金が減る会社」
この記事の対象は、次のような会社です。
- 試算表では営業利益が出ている
- それでも毎月の預金残高が減っている
- 借入の元金返済が重い
- 売上増加に合わせて売掛金や在庫も増えている
- 税金・社会保険料の支払いが後ろへずれ始めている
逆に、営業赤字が続いている会社は、まず赤字幅と支払不能月を確認する必要があります。営業利益が出ている会社でも、返済後キャッシュが赤字なら、資金繰り上は赤字会社と同じように現金が減っていきます。
最初に作る表は損益表ではない
最初に作るべき表は、月次損益表ではなく、返済後キャッシュの確認表です。
| 確認項目 | 損益への影響 | 現金への影響 |
|---|---|---|
| 営業利益 | プラス | 原則プラスの起点 |
| 減価償却費 | 費用として利益を下げる | その月の現金支出ではない |
| 借入元金返済 | 損益に出ない | 現金は出ていく |
| 売掛金増加 | 損益に出にくい | 入金前の資金が固定される |
| 在庫増加 | 損益に出にくい | 仕入資金が固定される |
| 税金・社会保険料の不足 | 一部は損益外 | 未納なら後で大きな支出になる |
金融庁の中小・地域金融機関向け監督指針でも、貸付けは借り手の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断するものとされ、事業からのキャッシュフローを重視する趣旨が示されています。
銀行に説明するなら「営業利益が出ています」だけでは弱い。返済後に現金が残るか、返済を続けても最低残高を割らないか、赤字になる月がいつかを示す必要があります。
説明用の数字で見る返済能力
これは実在案件ではなく説明用の仮定です。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 営業利益 | 120万円 |
| 減価償却費 | 80万円 |
| 既存借入の元金返済 | -250万円 |
| 売掛金・在庫増加による運転資金増加 | -70万円 |
| 税金・社会保険料の通常支払不足 | -30万円 |
| 返済後キャッシュ | -150万円 |
この会社は、損益では月120万円の営業黒字です。減価償却費を足し戻すと、いったん月200万円の資金原資があるように見えます。
しかし、元金返済250万円、運転資金増加70万円、税金・社会保険料の不足30万円を差し引くと、返済後キャッシュは月150万円の赤字です。
現預金が900万円あっても、最低運転資金として300万円を残す必要があるなら、対策に使える資金は600万円です。月150万円ずつ減れば、約4か月で最低運転資金を割ります。
この状態で「黒字だから追加融資を待つ」と判断すると、断られた時点でリスケや固定費削減の時間が残らない可能性があります。
減価償却費をそのまま返済原資にしない
減価償却費は、返済能力を見るうえで重要です。国税庁も、減価償却資産の取得金額は取得時に全額必要経費にするのではなく、使用可能期間にわたり配分するものと説明しています。
つまり、減価償却費はその月に現金が出ていく費用ではありません。そのため、営業利益に減価償却費を足し戻して、借入返済の原資を見る考え方自体はあります。
ただし、ここで止めると危険です。
設備更新が必要なら現金は残らない
古い車両、機械、設備を使っている会社では、減価償却費を返済に回し続けると、更新資金が残りません。設備が止まれば、売上も止まります。
減価償却費を返済原資として見るなら、少なくとも今後1年以内に必要な修繕、更新、車両入替、リース料を別枠で控除します。
運転資金が増えていれば足し戻しは消える
売上が増えている会社ほど、売掛金や在庫が増えます。粗利が出ていても、入金前の売掛金と在庫に資金が固定されれば、減価償却費の足し戻し分はそこで消えます。
経済産業省のローカルベンチマークでは、営業利益率だけでなく、EBITDA有利子負債倍率や営業運転資本回転期間などの指標も使われます。これは、利益だけでは借入負担や資金固定を見切れないからです。
返済条件を見直すべきサイン
返済条件の見直しを考えるべきサインは、単に「資金が少ない」ではありません。次のどれかに当てはまるかです。
| サイン | 意味 | 初動 |
|---|---|---|
| 返済後キャッシュが3か月連続で赤字 | 黒字でも現金が減り続けている | 13週間と6か月の資金繰り表を作る |
| 最低運転資金を6か月以内に割る | 改善策の効果が間に合わない可能性 | 返済条件見直しを選択肢に入れる |
| 税金・社会保険料を後ろへずらしている | 銀行返済だけを優先している | 税社保も同じ表に入れる |
| 売上増加と同時に預金が減る | 売掛金・在庫に資金が固定されている | 回収サイトと在庫月数を確認する |
| 社長個人資金で穴埋めしている | 家族生活費まで失う危険がある | 個人投入上限を先に決める |
中小企業庁の収益力改善支援でも、収益力改善アクションプランと簡易な収支・資金繰り計画を作成する支援が示されています。再生局面では、利益改善策と資金繰り計画を分けて考えるのではなく、同じ月次表でつなげる必要があります。
実務判断:正常返済できる会社と危ない会社を分ける
実務上は、黒字会社でも次の順番で見ます。
- 返済後キャッシュがプラスか
- 13週間以内に支払不能週がないか
- 6か月後の現預金が最低運転資金を上回るか
- 減価償却費を返済に回しても設備更新資金が残るか
- 家族生活費や最後に守る資金を会社へ入れていないか
正常返済を続けてよいのは、返済後キャッシュがプラスで、最低運転資金を割らず、設備更新や税金支払も資金繰り表に入っている会社です。
危ないのは、営業利益だけを見れば黒字なのに、元金返済と運転資金増加を入れると毎月現金が減る会社です。この場合、銀行返済を続けるほど、固定費削減やリスケ相談に使える時間が短くなります。
「黒字だから返済を続ける」ではなく、「返済しても現金が残るから続ける」と判断すべきです。
銀行へ説明する資料
銀行へ相談する場合は、口頭で「黒字です」「今月だけ苦しいです」と言っても判断材料になりません。
日本政策金融公庫の中小企業向け書式にも、資金繰り計画を策定するための資金繰り表、経営改善計画書が用意されています。民間金融機関でも、公庫でも、返済能力を説明するには資料の形に落とす必要があります。
最低限、次の資料を揃えます。
- 直近2期分の決算書
- 最新の試算表
- 金融機関別の借入残高と毎月元金返済額
- 13週間資金繰り表
- 6か月の月次資金繰り予測
- 売掛金一覧と回収予定日
- 在庫一覧と資金化予定
- 税金・社会保険料の未納、分納、今後発生額
- 改善策ごとの月別効果
重要なのは、返済を止めたい理由ではなく、返済条件を見直した期間に何を改善し、いつ返済後キャッシュをプラスに戻すかです。
一般論で結論を出せない範囲
返済能力は、業種、回収サイト、支払サイト、在庫水準、設備更新、税金・社会保険料、担保、保証、金融機関との取引状況で変わります。
したがって、本稿だけで「追加融資を受けるべき」「リスケすべき」「返済を続けるべき」とは結論づけられません。結論は、同じ資金繰り表に施策を入れた後の現預金推移で決めます。
黒字なのに預金が減っている場合は、早い段階で数字を分解してください。無料相談では、損益だけでなく、元金返済、運転資金、税金・社会保険料、家族生活費まで含めて、何を守るべきかを一緒に確認します。
参考資料
- 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」
- 経済産業省「ローカルベンチマーク(ロカベン)シート」
- 中小企業庁「事業分野別指針及び基本方針」
- 中小企業庁「収益力改善支援」
- 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 中小企業の方」
<この記事の著者・運営者>
事業再生コンサルティング株式会社
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